【中国初の河川流域保護法「長江保護法」】(前編) 日本企業への影響を整理

2021/12/16
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連載の目次

  • 前編:日本企業への影響を整理
  • 後編:上海海事局の対応を解説

最近、上海での危険化学品を扱う船舶輸送品の荷揚げトラブルが増えた話をよく耳にします。これは、2021年3月1日から施行された「長江保護法」が起因していると思われます。今回は「長江保護法」の概要および、それに伴う運用状況について、前後編で紹介します。

環境破壊が深刻化「10年禁漁」も ―長江の概要と現状―

長江は、青海省のチベット高原を水源地域とし、中国大陸の華中地域を流れ、東シナ海へと注ぐ大河です。全長は約6300キロメートルで、中華人民共和国およびアジアでは最長、世界でもナイル川、アマゾン川に次ぐ第3位です。流域面積は約180万8500平方キロメートルで、水源から河口までの落差は5100メートル。年流水量は約1兆トンで、中国全土の包蔵水力の約40%を占めています。

上流部は「金沙江(きんさこう)」、下流部は日本はじめ中国国外でも知られる「揚子江(ようすこう)」の異称があります。チベット、四川、雲南、湖北、湖南、江西、安徽、江蘇の各省・自治区を流れ、上海で海に注ぎます。増水期には1万トン級の船舶が河口付近から武漢まで航行できます。長江全体としては、途中、四川盆地、成都平野、両湖平原など中国の重要な穀倉地帯や三峡の急流、洞庭湖・鄱陽湖などの湖をつくっています。

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図1 長江の位置

長江は長期にわたり、乱獲や航路の整備、採石など高強度の人類活動の影響を受けてきました。流域における生態環境の破壊は深刻で、ヨウスコウカワイルカの絶滅を引き起こしました。経済的な価値がある魚類の資源もほとんど枯渇しています。そのため、生物の多様性の保護や長江水域の生態機能の修復、国家の生態安全保障の観点から、2021年1月1日より長江での「10年禁漁」の措置が全面的に始まりました。

2021年3月施行 ―長江保護法の概要―

2020年12月26日の第13回全国人民代表大会常務委員会で「長江保護法」が可決され、2021年3月1日から施行されました。

「長江保護法」での長江流域とは、長江の主流、支流および湖沼によって形成された集水区域を指し、青海省・四川省・チベット自治区・雲南省・重慶市・湖北省・湖南省・江西省・安徽省・江蘇省・上海市、および甘粛省・陝西省・河南省・貴州省・広西壮族自治区・広東省・浙江省・福建省などの関連する県級行政区域が対象とされています。長江保護法は、この流域における生態環境の保護・回復、資源の合理的利用、人と自然との共生実現などを目的として定められたもので、これは中国初の河川流域保護法です。

この法令は、全9章・96条から成り、計画・管理、資源保護、水質汚染防止、生態環境の回復、法的責任などが規定されています。

大きくまとめると、次の4つのことが定められています。

①汚染物質排出基準の高水準化

②汚染物質排出総量管理の厳格化

③環境規制の強化

④産業構造の最適化/工場建設・移転に関する規定の厳格化

企業建設などに影響、化学品輸送などに支障も ―日本企業への影響―

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図2 重慶市内を流れる長江

法令において日系企業に影響を与える可能性がありそうな条項は、次のものです。

計画・管理

第22条
長江流域の省級人民政府は、その行政区域の生態環境と資源利用状況に基づいて、生態環境区分管理計画と生態環境入境表を策定し、国務院生態環境主管部門に提出後、実施する。長江流域の産業構造と産業配置は、長江流域の生態システムと資源・環境の収容能力に適合させなければならない。長江流域の重点生態機能区域において、生態系に深刻な影響を与える産業を配置することを禁止する。汚染の激しい企業や事業を長江の中、上流域に移転することを禁止する。
第26条
国家は長江流域の河川・湖の河岸線に対して特別管理を実施する。国の「長江流域調整機構」は、国務院の天然資源、水行政、生態環境、住宅と都市建設、農業農村、交通運輸、林業と草地等の部門、及び長江流域の省級人民政府と協力、調整して河湖岸線の保護範囲を定め、河湖岸線保護計画を制定し、河湖岸線の開発と建設を厳格に管理し、河湖岸線の合理的且つ効率的な利用を促進する。
長江本流・支流の岸線から1km 以内に、化工園区や化工事業を新設又は拡張を禁止する。
長江本流岸線から 3 km以内、及び主要な支流の岸線から1 km以内に廃鉱物庫を新設、改建、または拡張することを禁止する(但し、安全と生態環境保護の水準を改善する目的での改建は除外)する。

水質汚染防止

第51条
国家は、長江流域で危険物を運ぶ船舶の汚染に対する賠償責任保険と財政的保証を組合せたシステムを確立する。具体的措置は、国務院交通運輸主管部門が関連部門と協力して制定する。
長江流域に於いて、毒性の高い化学品や国家が内陸水路での輸送を禁じている危険化学品を輸送することを禁止する。長江流域の県級以上の地方人民政府の運輸部門は、関連部門と協力して、長江流域に於ける危険化学品輸送の管理を強化する。

法的責任

第90条
本法律の規定に違反して、長江流域に於いて、毒性の高い化学品及び内陸河川輸送を禁止されている危険化学品を水上輸送した場合は、県級以上の人民政府の交通運輸主管部門或いは海事管理機関が是正命令出し、違法所得を没収し、併せて20万元〜200万元の罰金を科す。直接責任を負う主管者及びその他の直接責任者に対しては 5万元〜10万元の罰金を科す。状況が重大な場合、是正のために事業停止を命じるか、当該免許を取り消す。

表1 長江保護法で日本企業の活動に関連する可能性のありそうな条項
⁠(表の情報をダウンロードしてご覧いただくことができます)

第22条および第26条では、重汚染企業、化学園区、化工企業の新規建設・拡張時に選択できる地域範囲が制限されることが明記されています。実際この長江本流・支流の河岸から1キロメートル以内には、化工園区や化工企業が存在しています。法令施行後に、南通経済技術開発区の長江に近い区域に所在する複数の化工企業が現地政府から市内の他の区域への移転を求められています。

また、第51条については、危険化学品を取り扱う企業にとって、長江流域での劇毒化学品と内陸河川輸送で禁止される危険化学品の水上輸送に支障をきたす可能性があります。両化学品とも政府関係部門が目録を制定しており、劇毒化学品は148 品目、内陸河川輸送が禁止される危険化学品は313 品目が指定されています。対象品目を取り扱う企業としては、水上輸送から道路輸送への切り替えなどの検討が必要になります。

後編では、当局の対応や、同局が対象企業などに向けて公開した対策のQ&Aなどについて紹介します。

【参考文献】
⁠全国人民代表大会「中華人民共和国長江保護法」
⁠http://www.npc.gov.cn/npc/c30834/202012/1626d0bc5284485588222995e712c434.shtml

林田 輝昭(はやしだ てるあき)

 上海息交企業管理有限公司 熊本大学大学院修士課程修了(専攻は化学)。卒業後、チッソ(現JNC)に就職。定年を機に上海で化学品のコンサルタント業務を上海息交企業管理有限公司
に帰属し活動中。