全固体電池はすでに量産中! 産業ロボで実用化、EVも視野 マクセル【Zoom up!企業ニュース】
2024/05/21編集長:電気自動車の充電スタンドをよく見かけるようになったけど、バッテリーが小さいから長距離ドライブにはまだ難しいよね。
デスク:バッテリー性能がいいっていわれている全固体電池が搭載されれば状況は変わりそうですけれどね。
編集長:でも、全固体電池はまだ開発段階で未来の技術みたいなものでしょ?
デスク:何をおっしゃいますか。小さいものならもう量産されていますよ。
編集長:え、そうなの? だとすると、ちゃんと全固体電池のことを調べたほうがよさそうだな。
デスク:では、全固体電池を量産しているマクセルに特派員を送りましょう。
編集長:「いい音しか残れない。」懐かしいなあ。
デスク:いまは「マクセルにまかせるー!」ですよ。
全固体電池は急速充電で長寿命、高温低温にも耐える
マクセル(東京都港区)の新事業統括本部の担当本部長である山田將之さんは、「リチウムイオン電池より寿命が長く、低温や高温にも耐えられる特長を持つのが全固体電池です」と話します。
リチウムイオン電池とは、スマートフォンやパソコン、電気自動車(EV:Electric
Vehicle)などに搭載されている電池。繰り返し充電ができる、いわゆるバッテリーとして知られています。リチウムイオン電池の中には「電解液」という液体があり、電解液の中でリチウムイオンが移動することで放電・充電ができます。
この電解液の代わりに固体の電解質を使って、固体の中でリチウムイオンが移動できるようにしたのが全固体電池です(図1)。

図1:リチウムイオン電池と全固体電池の比較。全固体電池はシンプルな仕組みで劣化しにくく、急速充電や急速放電も可能
(画像提供:マクセル)
リチウムイオン電池はノートパソコンの小型・薄型化などに大きく貢献してきましたが、液体の中でイオンが移動するとき、さまざまな抵抗を受けるために急速に移動させるには工夫が必要であり、また、それぞれの抵抗が劣化の要因になっています。また、一般的なリチウムイオン電池が利用できる温度帯はマイナス20℃からプラス60~85℃程度に限られています。温度が低すぎると電解液が凍ってしまい、温度が高すぎると有機溶媒である電解液が蒸発するからです。
こうしたリチウムイオン電池の欠点に対して山田さんは、「全固体電池はすべてが固体でできているので、100℃以上の環境でも使用できます。液体と比べて固体ではイオンの移動がスムーズなので急速に放電や充電ができ、長寿命化も実現できます。いま、私たちが量産している小型の全固体電池は、バックアップ用途であれば105℃という高温下で10年の寿命が予測されています」と、自信を持って全固体電池の特長を説明します。
産業用多軸ロボットで実用化
マクセルは、耐熱性と高密封性を持つ「セラミックパッケージ型全固体電池」をすでに量産しています。10.5 mm四方、高さ4.0 mmと小型ですが、放電可能な温度範囲はマイナス50℃からプラス125℃と広く、熱が発生するような場所でも使用できます。
例えば、産業用多軸ロボットは、関節を動かす複数のサーボモーターを有しており、エンコーダーという装置をサーボモーターと組み合せて回転軸の角度を制御します。エンコーダーには、ロボットが停止したときの位置や角度などを記録する機能があり、そのバックアップのために使い切りの一次電池を使用しています。この電池はおおむね1年から3年で交換する必要があり、メンテナンスフリーの長寿命電池が求められていました。
そこで、セラミックパッケージ型全固体電池とエンコーダーとサーボモーターを一体化することで、ロボット本体の発熱にも耐え、10年間メンテナンスフリー(電池交換が不要)なシステムを実現させました。バックアップ用電池はもちろん、これまでバックアップ用電池を外部に設置するために必要だったハーネスの一部も不要となり、ハーネスの断線といったトラブルから解放されることにも貢献します(図2)。山田さんによると、「世界中から問い合わせがある」とのことです。

図2:全固体電池を産業用ロボットに適用。サーボモーター、エンコーダー、全固体電池を一体化し、各関節軸に設置することで一次電池と接続していたハーネスの一部が不要になり、10年間電池交換不要に
(画像提供:マクセル)
小型の課題をクリアしつつ、徐々に大型へ
ただし、全固体電池の製造にはいまも課題が多く、なかなか大規模な量産拡大につながりにくいのも事実です。特に、固体電解質をいかに隙間なく充填するかが難しいとされています。隙間があると、その分イオンの通り道がなくなってしまうからです。
現在、全固体電池向け電解質として有力視されているものは、硫化物と酸化物の2種類。硫化物は水分と反応してしまうため乾燥環境で製造する必要がありますが、圧縮しやすく室温でも高い充填性を実現できるという性質があります。一方、酸化物は水分などと反応しにくい安定性があるものの、数百度の高温で焼結しなければ緻密にならず、大規模な製造設備が要求されます。
どちらの素材を使うかは、各社の判断によって分かれています。マクセルは、長年リチウムイオン電池やマイクロ電池を乾燥環境で製造してきたノウハウや設備を活用することができるため、硫化物を電解質の素材として全固体電池を開発しているとのことです。
現在、マクセルで量産している全固体電池はセラミックパッケージ型。他にもコイン形と円筒形を開発中です。セラミックパッケージ型の容量が8ミリアンペア時であるのに対して、円筒形は200ミリアンペア時と比較的大きいのが特長です。山田さんは、「最初は小型で試し、徐々に容量を大きくする中で製造や材料の課題をクリアしつつ、どのような用途に適しているのかを見定めながら事業を拡大しているところです」と話します(図3)。

図3:段階的設備投資を実行。全固体電池の市場拡大を見据え、開発や量産に向けて段階的に設備投資をしていく予定
(画像提供:マクセル)
認知度を高めて世界に全固体電池を
現在量産されている小型の全固体電池は、工場の自動化やウェアラブル端末の用途が想定されますが、容量を大きくできればEVの駆動バッテリーとしての搭載も現実的になるでしょう。また、小型の全固体電池が、タイヤに搭載されるモニタリング機器に組み込まれることで自動運転をサポートするなど、さまざまな種類の全固体電池が異なる用途で求められるのではないかと、山田さんは考えています。
EV以外にも、インフラや設備のモニタリングに全固体電池の期待が集まっています。例えば、石油や天然ガスを送るような高温から低温までの厳しい環境では、安全性が高く耐熱性があり長寿命の全固体電池の特長が生かせるでしょう。他にも、医療現場で手術室に持ち込む機器を高熱滅菌するとき、組み込まれた全固体電池ごと滅菌するといった使い方が可能となります。
このように、さまざまな用途が想定されるものの、全固体電池の認知度はまだ低いというのが山田さんの所感です。「小型の全固体電池が量産されていること自体、まだ知られていないという印象を強く受けます。そのため、展示会やセミナーなどで広く呼びかけているところです。特に海外ではほとんど話題になっていませんが、むしろ日本から全固体電池を世界に広めるチャンスでもあると考えています。他の企業と連携しながら、全固体電池をより容易に輸出できるよう準備も進めています」と、今後の展望を語りました。
島田 祥輔(しまだしょうすけ)
サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。
