CO2を長期固定!人工光合成でプラ生成 大阪公立大学【Zoom up!研究ニュース】

2023/09/20
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編集長:ああ、暑い。暑い。温室効果ガスが憎い。どうやったら減らせるんだろう。大気中にあるCO2をもっと有効利用できたらいいのに。

デスク:炭酸水でも作りますか?

編集長:それじゃ温暖化を食い止める前に、お腹がたぷたぷになっちゃうだろ。もっと他のものは作れないのか?

デスク:フマル酸はどうでしょう。

編集長:フマル酸か。プラスチック原料にもなるという材料だね。いろいろ使えそうだが……そんなもの作れるのか?

デスク:ほら、こんなニュースがあったじゃないですか。「大阪公立大、CO2からフマル酸の合成成功」。

編集長:おお、2022年の10月のニュースだな。この研究はいまどうなってるんだろう。特派員を送り込んで、詳しい話を聞いてみよう。

二酸化炭素を長期間固定できる材料に変える

地球温暖化を進める温室効果ガスの削減は、各国が一体となって取り組むべき問題です。特に温室効果ガスの大きな割合を占める二酸化炭素(CO2)の削減については、日本も2050年までに排出量と吸収量が相殺されるカーボンニュートラルを目指しています。

植物のように大気中に存在しているCO2を利用して別の有用な物質を作ることができれば、大気中のCO2の量を減らすことができます。大阪公立大学教授の天尾豊さんは、光のエネルギーを用いてCO2を有用な物質に変換する技術を研究しています。

「CO2から他の物質を作る場合、炭素(C)が一つしかないメタノール(CH3OH)やギ酸(CH2O2)のような化合物に変換する研究が主流です。私も以前はメタノールなどを作る研究を進めていましたが、いまは、他の有機物質にCO2を結合させて、もっと複雑な物質を作る研究に重点を置いています」(天尾さん)

CO2からメタノールを作れば燃料として利用できますが、燃やしてエネルギーを得ると同時に、すぐにCO2になってしまいます。せっかく手間をかけてCO2を原料とするのであれば、長期間使える有用なものを作りたいと天尾さんたちは考えました。天尾さんたちが目指しているのは、CO2を長期間固定できる物質を作るための技術開発なのです。

CO2を他の有機物質に結合させて、新たな物質を生み出すという技術のヒントは、植物の光合成にあります。光合成といえば、CO2と水(H2O)から酸素とブドウ糖を作り出すことは、多くの人が知っています。高校の化学では、次のような化学式で光合成を教えるのが一般的です。

6 CO2+12H2O → C6H12O6+6O2+6H2O

この式だけを見ると、ブドウ糖(C6H12O6)のCはすべてCO2から供給されているように見えます。しかし、これは最終的な結果だけを表している式にすぎません。実際には、CO2が別の経路で作られた分子に付加され、次々と化学反応を起こすことで、最終的にブドウ糖が合成されるのです。

天尾さんたちは、植物がCO2から数段階を経て有用な物質を作り出す化学反応を参考にしています。化学反応に必要な還元力を光のエネルギーで生み出し、それを利用してCO2を他の物質に結合させる系を組み上げることで、新たな人工光合成系を作り出すことを目指しているのです。

プラスチックの原料になるフマル酸を作り出す

天尾さんの研究室で大学院生をしている竹内未佳さんは、学部4年生のとき、「CO2からフマル酸を合成する」という研究テーマを与えられました。

フマル酸は図1のように生分解性高分子の原料になる化合物です。

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図1:フマル酸を原料とした生分解性高分子の合成経路
⁠(画像提供:竹内さん)

CO2からフマル酸を作り出すことができれば、生分解性プラスチック製品の原料となります。プラスチックは長期にわたり安定的な状態を保つため、製品として使用できなくなって捨てられて最終的に分解されるまでの期間、すなわち数十年はCO2を固定しておけます。また、捨てられた後も生分解されるため、環境への負荷を抑えられます。

ただし、フマル酸は二重結合を含む複雑な物質です。CO2から二重結合を含む有機物質を合成することは、あまり行われてない試みです。竹内さんは当時の研究の様子を次のように振り返ります。

「CO2からフマル酸を作る技術はまだありませんでしたが、CO2からリンゴ酸という物質を作る反応は、すでに天尾先生たちが確立していましたので、私はまず、リンゴ酸からフマル酸を合成することに挑戦しました。リンゴ酸からフマル酸を合成するときは、水の中で脱水させる難しい反応を伴いますが、フマラーゼ(FUM:fumarase)という酵素を用いることで、フマル酸の合成に成功しました。ところがフマル酸の生成量が少なく、実用化レベルに程遠かったため、今度は生成量を増やすための試行錯誤が始まりました」(竹内さん)

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図2:CO2からフマル酸を合成する反応経路
⁠(画像提供:竹内さん)

竹内さんは、酵素FUMの構造に着目しました。そして、FUMの構造からリン酸塩を加えることが有効ではないかと仮説を立て、見事フマル酸の生成量を増加させることができました。この研究成果は、2022年7月に英国王立化学会の国際学術誌『Reaction Chemistry & Engineering』速報版にオンライン掲載されました。

段階を経て光合成に近づけていく

竹内さんが次に挑戦したのは、図2の反応を光のエネルギーを使って進めることでした。2022年に発表した論文では、CO2からリンゴ酸を生成するときに必要な還元力を、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH:Nicotinamide Adenine Dinucleotide Hydride)という薬剤の投入によって供給していたからです。

NADHは生物の体内でも使われている還元剤で、生体内のさまざまな化学反応を進めるのに重要な役割を担っています。NADHが還元力を他の物質に与えると酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+ :Nicotinamide Adenine Dinucleotide+)になります。生物の体内ではミトコンドリアの生み出すエネルギーによって、NAD+はNADHに還元されて再利用されますが、人工的な環境下では特別な工夫をしないかぎりNADHが消費されるばかりです。

図2の反応を起こすには、大量のNADHが必要でした。しかし、植物が行っているように、光のエネルギーでNAD+をNADHに戻して、再び還元力を与えることができたら、さらにサステナブルな方法でCO2からフマル酸を合成することができます。

「光によってNAD+を還元する反応系の確立は、研究室の他の人によって達成されていました。あとはそれを図2の系に連結するだけですが、実はそのプロセスを実現するのに、かなり苦戦を強いられました」(竹内さん)

難しい挑戦にもかかわらず、竹内さんは着々と研究を進め、ついに図3のような反応経路を確立させることができました。その成果は2022年12月に『Sustainable Energy & Fuels』にオンライン掲載されました。

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図3:CO2からフマル酸を合成するための新規人工光合成系
⁠(画像提供:竹内さん)

実用化に向けて次なる課題

竹内さんたちは、この技術が大量にCO2が発生する火力発電所や工場のような場所で使われることを目指しています。

「産業の過程で大量に排出されるCO2を一旦どこかに貯留しておいて、それらをまとめて有用な有機物に変換することができたら、サステナブルな循環が生まれます。そのためにも、次はボンベから供給するCO2ではなく、石炭火力発電所から出る排ガスを想定した濃度15%のCO2でフマル酸を合成できるように、研究を進めていきたいと考えています」(竹内さん)

2022年11月には、イギリス王立化学会が新たに創刊した論文誌『RSC Sustainability』の初刊に掲載された論文の著者として、天尾さんと竹内さんが王立化学会のインタビューを受け、英国時間11月11日、国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)への提言としてライブストリーミングが公開されました。光のエネルギーを使ってCO2からプラスチックの原料を作り出すこの成果は、温室効果ガス削減の新しいアプローチとして、国内外の多くの研究者や企業から注目されています。

次はCO2からどのような化合物が作り出されるのでしょうか。天尾さんたちのこれからの研究成果も楽しみです。

寒竹 泉美(かんちくいずみ)

理系ライター・小説家 九州大学理学部化学科卒業後、京都大学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)。小説を書く傍ら、理系ライター集団チーム・パスカルに所属し、研究者インタビューや理系企業のオウンドメディアを中心に執筆している。