「真の連続造粒機」で目指せ! 低コスト高品質の製薬 ステア・ジャパン【Zoom up ! 企業ニュース】
2023/09/05編集長:薬を飲むのって、どうも昔から苦手なんだよな。
デスク:何言ってるんですか! 健康のためです、辛抱してください。
編集長:はーい。しかし、薬を作るってのはどれだけ大変なんだろうかね。飲み薬ひとつ取っても大きさや形に重さ、さらには成分まで厳しい基準があるだろうし。
デスク:そりゃ、体に取り込むものですからね。
編集長:そうそう、実はこんなニュースを見つけたんだよ。
デスク:おや、錠剤を作る「造粒機」についての記事ですか。
編集長:なんだかこの機械が凄いらしいっていうんで、ちょっと気になっちゃってね。
デスク:さては……調べてほしいということですね?
複数の造粒工程を1台の機械に
STEER JAPAN(ステア・ジャパン、本社・神奈川県横浜市)は、同方向回転二軸押出機とその周辺装置に関しての設計開発、製造から販売、サービスまでを一貫して手掛けています。インドにあるSTEER ENGINEERING社の日本法人として2005年に設立しました。
回転二軸押出機とは、対になった2本のスクリューエレメントを用いて複数の異なる材料を混ぜ込み練り上げる「混錬」を行いながら、出来上がった素材を押し出すことのできる機械です。主に樹脂材料に対して用いられる押出機で培った技術を、同社が新たに製薬分野へと生かすべく作ったのが今回注目する「連続造粒機『Integraal(インテグラアル)』」です。

図1:Integraal本体
(写真提供:STEER ENGINEERING)
錠剤タイプの薬を作るには、まず薬の主成分である原薬を混錬し、それを顆粒状に造粒します。作られた顆粒は乾燥させたのちに錠剤の形に仕上げる打錠という工程へと送られます。
「これまでは、個々の工程ごとに作業を分けて行うバッチ式と呼ばれる方法で行われることが主流でした。しかしIntegraalでは混ぜるところから打錠する手前の乾燥までの工程を1台の機械の中でコンパクトに、そして連続的に行うことが可能です。これにより検査や技術管理にかかるコストや製造時間を抑えることができますし、機械の設置面積やマンパワーの面でもメリットが生まれます」と、担当する野呂将司さんは話します。
優しく混ぜる特殊な形状のスクリュー
造粒に関わるプロセスは近年、バッチ式から連続式へと移行しつつあります。しかしIntegraalの表現する「連続」には、他の製品でうたわれているそれと大きく異なる点があります。
「従来からある押出型の連続造粒機は、製造中の温度管理を適切に行うべく、造粒する工程を行う押出機と乾燥させる工程を行う乾燥機を分けています。しかしIntegraalは押出部で造粒から乾燥までを一気に行えるのです。この大きな特徴を可能にしているのは、押出機のスクリューエレメントが持つ特殊な形状です」(野呂さん)
二軸押出機のスクリューエレメントに従来からよく使われているのは、断面が軸を中心としたラグビーボール形の二条エレメントと呼ばれるものです。これに対し、Integraalのエレメントには軸の中心からずれたような変則的な断面形状を持つ、偏心特殊エレメントが使われています。この違いが、混錬中の材料に生じる熱に大きく関わると野呂さんは続けます。
「二条エレメントは材料を引きちぎりながら混ぜるため、どうしても力がかかることで生まれる熱を防ぎきりません。一方、偏心特殊エレメントを使うと、材料を畳んで伸ばして畳んで…という工程を繰り返すことで、材料にできるだけ負荷がかからないようになっています。そのため熱の発生を抑えながら混錬できるのです」

図2:スクリューエレメントの断面比較。上がIntegraalの偏心特殊エレメント、下が二条エレメント
(写真提供:STEER JAPAN)
安定したプロセスが品質を支える
製造途中に発生する熱は、薬の製造においてとても厄介な存在です。なぜなら、温度の変化によって原薬の性質が変化してしまうからです。その点、Integraalの偏心特殊エレメントは大きな優位性を持っています。
また途中の温度変化が少ないということは、製造過程における温度管理のしやすさにも影響を及ぼします。「造粒と乾燥が同じ装置の中で可能だというIntegraalの特徴は、押出機の仕組みを知っているお客さまからするととても驚かれます」と、野呂さんは胸を張ります。
さらに偏心特殊エレメントを用いた造粒は、製品の品質にも大きく影響してきます。ここでIntegraalと二条エレメントを使った既存の押出機それぞれを、同じ原薬を用いて投入量を変えながら稼働させた際の比較結果を見てみましょう。
まずは、エレメントを動かすのに必要な力であるトルクを比較した結果です。

図3:トルク値の比較。オレンジ色が二条エレメント造粒機、青色がIntegraalの稼働時。横軸は時間経過、縦軸はトルクの大きさを示している。3つのグラフは上から順に原薬の投入量が少なくなっている
(画像提供:STEER JAPAN)
オレンジ色が二条エレメントの造粒機、青色がIntegraalの稼働時に計測されたトルクです。二条エレメントを用いた造粒機のトルクは原薬の投入量が変わると、トルクの変動量がばらついています。一方Integraalはトルクが変動せず一定で、かつ平均した値も小さいことがわかります。
造粒プロセスの安定性における差は、出来上がった顆粒の形にも影響します。

図4:造粒物の比較。左側が二条エレメントの造粒機、右側がIntegraalによるもの
(写真提供:STEER JAPAN)
二条エレメントを用いた造粒機の粒には長細い形が多く見受けられますが、Integraalによる粒はどれも均等で短長の軸が目立たない粒形です。この形のばらつきの有無は、最後に粉末などを圧縮成形する打錠の工程で影響を及ぼすと野呂さんは言います。
「造粒物の形状に大きくばらつきが出てしまうと、打錠して形成されたはずの錠剤が不安定になってしまい、中に空洞ができたり欠けてしまったりということにつながりかねません。この点は製薬会社さんからすると最も懸念する部分ですので、造粒プロセスにおいて造粒物の品質を安定的に良くすることはとても重要です」
日本で実績を積む準備は万端
省スペースで省コスト、さらには安定した造粒を可能にするとなれば大きな期待を寄せてしまうものの、すぐ日本国内で実績を挙げられるかといえばそうではなかったと代表取締役の佐藤明彦さんは話します。
「これまでインドで実績を上げてきた機械なのですが、日本で動かすとなると条件があまりに違うんですね。温度や湿度といった気候条件も、さらには薬に要求する精度も全く違います。そこでまずは日本に合わせたさまざまな条件出しを積み重ねた上で、いよいよ2023年の春から実際にデモ運転を見ていただけるようになりました」
超高齢社会がすぐそこまで迫っている日本では、薬を必要とする人の数はますます増えています。一方で国家予算における社会保障費、とりわけ高齢者の医療費増加は社会問題になっており、できるだけ安価で高品質な薬作りがますます製薬メーカー側に期待されることは間違いないでしょう。加えて、健康維持のために口にする各種サプリメントの需要も高まっています。
時代の潮流として“ローコストで品質の良い製薬”への期待が高まる中、Integraalが活躍する場は、これからどのように広がっていくのでしょう。注目です。
本田 隆行(ほんだ たかゆき)
科学コミュニケーター 神戸大学大学院 自然科学研究科 地球惑星科学専攻修了(理学修士) 。大学時代の専攻は地球惑星科学。大学院時代に探査機「はやぶさ」理学ミッションに携わる経験を持つ。その後、地方公務員事務職(枚方市役所)・国立科学館勤務を経て、国内でも稀有なフリーランスの科学コミュニケーターとして活動中。展示プランニングや科学実演の実施・監修、大学講師やイベントファシリテーター、サイエンスライティングなど様々な仕事をこなす。著書に「宇宙・天文で働く」(ぺりかん社)
