人にも地球にも優しい「洗濯不要」シャツを目指せ! 日清紡テキスタイル【Zoom up! 企業ニュース】

2023/07/06
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編集長:アイロンかけなくてもいいノーアイロンシャツってあるでしょ。そのノリで、ノー洗濯シャツって作れないかな。

デスク:洗濯ぐらいしましょうよ。

編集長:面倒くさがりで言ってるわけじゃないぞ。洗濯不要なら長期出張でもシャツの替えもいらないし、汚れが溜まらないから捨てなくてもいい。水を使わないから環境にも優しい。

デスク:確かに。

編集長:というわけで、今回はここへ特派員を送り込む。

デスク:ここって、老舗の繊維メーカーですよね。洗濯不要のシャツを開発してってお願いしに行くんですか。

編集長:いや、じつはすでに開発中で、着々とプロジェクトは進んでいるそうだ。

デスク:ええっ!? それは話を聞きに行かなければ!

「洗濯不要シャツ」という究極形の実現へ

日清紡テキスタイルは糸の開発から小売りまで一貫体制でビジネスシャツの製造を行っている、老舗の繊維メーカーです。1993年には形態安定加工シャツ「SSP」を発売。さらに、不可能と考えられていた綿100%でアイロンがけ不要の次世代素材の開発にも成功しています。

一方で、ビジネスシーンにおいて、快適かつ便利にシャツを着るためには、アイロンがけが不要というだけでなく、手入れのしやすさも重要です。同社は、汚れがつきにくく落ちやすい「ケアフリー」素材の開発にも力を入れています。

ケアをしなくていいシャツ。その究極の形が「洗濯不要」のシャツです。開発意図を同社商品開発部の名倉俊成さんは次のように話します。

「弊社は環境や健康を考えたサステナブルな繊維事業を目指しています。洗濯不要になればその分、水が節約できます。また、ビジネスシャツは襟袖が汚れてくると着られなくなって捨ててしまうことが多いのですが、汚れが蓄積することがなければ、もっと長く使っていただけます」

シャツが汚れるのも洗濯するのも当たり前。そんな常識を覆す開発に敢えて挑むのは、どうしてでしょうか。

「環境に配慮し、ユーザーの利便性を高める製品を作りたいという想いが一番にありますが、それだけではありません。かつてW&W性4級という高い形態安定性を目指してノーアイロンシャツの開発を始めた頃、綿100%のシャツがシワになるのは当たり前だと思われていました。しかし、その常識を覆したことで、新たな市場が生まれました。このように、まだ見えていない潜在的ニーズを引き出して提供できれば、ビジネスとして大きな成功につながる可能性があると考えています」

洗濯不要の素材が誕生すれば、世の中へ大きなインパクトを与えます。その便利さから、ビジネスシーンのシャツだけにとどまらず、さまざまな服やファブリックにも応用されていくことでしょう。私たちの生活スタイルも一変するかもしれません。

汚れを付着させない

シャツの汚れとして最も落ちにくいものが皮脂によるものです。下の図は、衣類に付く汚れの種類を示しています。

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図1:衣類に付く汚れの種類
⁠(画像提供:日清紡テキスタイル、出所:日本石鹸洗剤工業会サイトを参照に同社作成)

現在はまだ皮脂汚れを洗濯なしで落とすことはできませんが、外から付く食べ物の汚れに対する防汚機能の開発はかなり進んでいて、技術の一部はすでに製品に応用されています。

洗濯不要の目標を達成するための技術の一つが、汚れの付着を防ぐ「ソイルガード(SG:Soil Guard)」加工です。

いったいどのようなものなのか、防汚効果を確かめる実験映像を見せてもらいました。

まず、未加工の生地と、SGで防汚加工した生地に、さまざまな液体を垂らします。液体は左から、醤油、ラー油、カレー、ミートソース、ワイン、コーヒー。どれも、普段の生活でシャツにこぼしがちな液体です。

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図2-1:①汚れが付着
⁠(画像提供:日清紡テキスタイル、以下も)

左側の未加工の生地は汚れが染み込んでいますが、右側のSG加工の生地では汚れが広がっていません。このまま軽く拭き取ってみると……。

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図2-2:②軽い拭き取り

ミートソース、ワイン、コーヒーの汚れはほとんど見えなくなりました。

次にこの生地を、洗剤を使わず、水だけで洗濯します。

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図2-3:③洗濯

ビーカーの中でかき回して、20秒。さて、どうなったでしょうか……。

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図2-4:④洗濯後

未加工の生地ではラー油がくっきりと残っていますが、防汚加工したSG加工の生地では、どの汚れもきれいになりました。

まだ洗濯不要とはいえませんが、ラー油やカレーのような油汚れも水だけで落ちるのであれば、出張中にシャツを汚してしまっても、ホテルでさっと洗って乾かして、次の日も問題なく着ていくことができそうです。

付着した汚れも光で分解

もう一つの技術は、光を当てると汚れが分解される「光触媒によるセルフクリーニング(SC:Self Cleaning)」です。こちらも実験を見てみましょう。

下の画像の左側は通常加工の生地で、右側がSC加工の生地「CLEANTECTER DX」です。汚れとして付着させているのはメチレンブルーという色素です。

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図3-1:①汚れが付着
⁠(画像提供:日清紡テキスタイル、以下も)

強い紫外線(UV:Ultra-Violet)を30秒間、照射します。これは太陽光に換算すると3.7時間分のUV量です。

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図3-2:②紫外線(UV)を照射

照射後、SC加工の生地は、汚れが薄くなっていました。

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図3-3:③照射後

SC加工は、汗染みや襟汚れの原因の主成分であるオレイン酸も分解することがわかっています。

「シャツのように日常的に着用する衣服では、どれだけ技術を高めても、汚れを100%付着させないということはなかなか実現できません。たとえわずかでも汚れが残ってしまえば、蓄積していきます。しかし、SC加工を組み合わせれば、太陽の光を当てることでこのわずかな汚れを消していくことができます。綿100%ノーアイロンシャツにSG加工とSC加工を組み合わせることで、汚れをなるべく付着させず、かつ、付着した汚れも分解し、洗濯をしたときもアイロンをかける必要がない。そんな究極のケアフリーシャツを計画しています」(名倉さん)

「表面改質」と「光触媒」の技術を応用

新しい未来の生活の形が見えてくる新技術。気になるのは、SG加工とSC加工のメカニズムです。SG加工とSC加工の秘密を、商品開発部の加藤泰美さんに、公開できる範囲で教えてもらいました。

「SG加工では、水に触れている場合と触れていない場合で状態が変わる機能材料を使っています。水に触れていないときは疎水基が表に出ていて、生地が汚れを弾くような性質を持たせます。これで汚れは中に浸透しにくくなります」

たしかに、汚れを垂らした実験(図2-1)では、生地が汚れを弾いているのを示すように液滴が丸く立体的になっていました。

「逆に洗濯中は、水が繊維の中に入るように反転して親水基が表に出ます。これで、水が繊維の中の汚れをかきだしてくれるのです」

実際にこの仕組みを生地に実装するためには様々な苦労があったそうです。

「まず、疎水性と親水性のバランスのとり方を試行錯誤しました。さらに、ノーアイロンなどの他の加工を阻害しないように、SG加工を生地表面に施す必要がありました。また、何度も洗濯しても耐えられるよう、剥がれ落ちないような工夫も重ねました。洗濯不要の素材を目指しているとはいえ、洗濯することも想定して開発する必要があるのです」

汚れを防ぐ防汚商品の開発は、進歩をしつづけています。

次に、光で汚れを分解するSC加工のほうは、どういうメカニズムなのでしょうか。名倉さんが説明してくれました。

「SC加工には酸化チタンが使われています。酸化チタンには、光を当てると有機物を水と二酸化炭素に分解する光触媒の機能があります。これは日本の藤嶋昭先生の発見です。窓や壁などに酸化チタンを組み込むことで、常にきれいな状態を保つセルフクリーニング技術も開発されていますが、私たちはそれを繊維に応用しようと考えました」

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図4:光触媒を応用した浄化材料のメカニズム
⁠(出所:CLEANTECTER DXパンフレット、画像提供:日清紡テキスタイル)

とはいえ、壁と違って綿は有機物です。汚れだけを分解して、土台である綿を分解しないようにするのは困難なミッションでした。しかし、苦労の甲斐があって、SC加工は現在、光によって汚れを分解できるだけでなく、除菌や消臭もできる素材として製品化され、さまざまなシャツに展開されています。

「酸化チタンの光触媒は日本発の技術ですから、もっと活かして発展させていきたいですね」と、名倉さんは抱負を語ります。

洗濯不要の綿100%シャツが当たり前になる未来は、もう目の前に迫っているのかもしれません。今度シャツを買うときは、サイズや着心地はもちろん、どのような技術が使われているのか、タグの表示にも注目してみてはいかがでしょうか。

寒竹 泉美(かんちくいずみ)

理系ライター・小説家 九州大学理学部化学科卒業後、京都大学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)。小説を書く傍ら、理系ライター集団チーム・パスカルに所属し、研究者インタビューや理系企業のオウンドメディアを中心に執筆している。