【現地ルポ】iPS細胞の大量培養からワクチンの有事即応まで──佐竹マルチミクス、100年の撹拌技術で挑むバイオ新拠点
2026/11/042026年10月13日、各種撹拌機のトップメーカーである佐竹マルチミクスは、埼玉県さいたま市桜区に新拠点「バイオ事業所」を開所しました。本事業所は、経済産業省の「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」の採択を受け建設されたものです。平時は再生医療や創薬向けに稼働し、パンデミックなどの有事にはワクチン製造機器を増産して即時供給する「デュアルユース」体制を備え、我が国のバイオ医薬品サプライチェーンの強靭化を担う重要拠点となります。

写真1 埼玉県さいたま市桜区に竣工した佐竹マルチミクス「バイオ事業所」の外観
100年の歴史が繋ぐ「完全国産化」への使命
開所式では、代表取締役社長の西岡光利氏が登壇しました。「1920年の創業直後、スペイン風邪により理化学機器の輸入が途絶したため、自社で撹拌機を国産化したのが当社の原点。2020年のコロナ禍でも、海外製ワクチン製造装置が届かない危機に直面した。100年前と同じ使命感で本事業所を立ち上げた」と強い決意を語りました。
続いて、バイオ事業を統括する加藤好一常務取締役が事業概要を説明しました。これまで国内のシングルユース設備(使い捨ての培養バッグやミキサーなど)は100%海外依存でしたが、国内パートナー企業との協業により、バッグやインペラ等の国内生産体制を構築しました。現状は約10%の部材を海外に頼っていますが、2028年度には完全なる「国産化率100%」を達成するロードマップを示しました。生産能力についても、有事には平時の倍増となる大型リアクター10台、ミキサー30台などを即座に出荷できる体制を整えています。

写真2 国産シングルユース製品の供給体制とロードマップを説明する加藤好一常務取締役
撹拌が生み出す「乱流」がiPS細胞の実用化を加速
式典に先立ち、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)所長の江藤浩之氏による記念講演が行われました。テーマは「iPS細胞由来血小板」の臨床応用と大量培養の壁についてです。血小板輸血には1回あたり約2,000億個もの細胞が必要となり、従来の培養皿では天文学的なコストがかかることが実用化・商業化を阻む巨大なスケールアップの壁となっていました。
一般的に動物細胞培養では細胞損傷を防ぐため「低せん断・層流」での穏やかな撹拌が定石とされますが、この壁を打ち破ったのが生体内の血流環境を再現する「乱流(Turbulence)」の力でした。佐竹マルチミクスの高度な流体制御技術を応用した「上下撹拌式バイオリアクター」を採用することで、巨核球から血小板をちぎり出すための最適な物理刺激を与え、産生効率の飛躍的な向上に成功しました。この成果は米科学誌『Cell』の表紙にも採択されています。江藤所長は「献血に依存してきた200年の輸血医療の歴史を、我々の世代で変える」と、今後の展望を力強く語りました。
徹底したBCP対策と最新鋭の検査体制
施設見学では、稼働を開始した最新鋭の設備が公開されました。延床面積約3,190㎡、3階建ての同事業所は、1階に広大な吹き抜け構造のFAT(工場出荷試験)ヤードを備えています。有事の際には大型機から小型機まで最大60台の機器を並列稼働させ、一気に検査・出荷することが可能です。
さらに特筆すべきは、部材を保管する自動立体倉庫を備えた南棟(ロジスティクス棟)の徹底したBCP(事業継続計画)対策です。荒川氾濫時の5m浸水想定に対応するため、南棟の建屋には窓を一切設けず、2階相当まで厚いコンクリート擁壁で囲みました。搬入口には潜水艦のような高耐圧防水扉を採用し、常時25℃に温度管理された1,000体以上のシングルユースバッグや重要設備を水害から完全に守り抜く設計となっています。
100年の撹拌技術が拓く「バイオものづくり」と経済安全保障
100年培ってきた「混ぜる」技術を核に、バイオインダストリーの最前線へと躍り出た佐竹マルチミクス。再生医療の夜明けと有事の安全保障を両立させる本事業所の稼働は、日本のバイオものづくり産業全体にとっても大きな推進力となります。経済産業省や埼玉県、さいたま市からの期待も厚く、同社が目指す「100億円企業」への確かな一歩となることが確信できる取材となりました。

写真3 新拠点の門出を祝して行われた鏡開き
【佐竹マルチミクス株式会社 企業概要】
創業:1920年(大正9年)
代表者:代表取締役社長 西岡光利
本社所在地:埼玉県戸田市新曽224-1
バイオ事業所:埼玉県さいたま市桜区
事業内容:各種撹拌機・混合機、バイオリアクター、流体解析技術等の開発・製造・販売
Chematels編集部
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