【化学業界の基礎知識】化学プラントの定期修理、ポイントを総まとめ
2022/04/28
Chematelsの連載「化学業界の基礎知識」の最終回をお届けします。今回のテーマは「化学プラントの定期修理」。定期修理の概要や関連法規、またメーカーとユーザー両方の視点からの定期修理への向き合い方などを説明します。
化学プラントは危険な物質を扱い、複雑な工程をもつ
「化学プラント」とは、一般的に、石油や天然ガスなどの原料を化学反応により加工・製品化する大型設備のことをいいます。ここでは、化学プラントの主な特徴をいくつか確認しておきます。
・取り扱う原料や製品の多くは有害で危険な物質であり、法で厳しく規制される
・装置の多くは高圧や高温、逆に真空や低温などのため密閉されており、装置の内側の様子は見えない
・原料投入から製品化まで複雑で長い工程であることが多く、また、自動化された多様な構成になっている
・原料・製品は、液体、気体、粉体・ペレットなどであり、多くは流体設備で扱う

図1:化学プラント
定期的に、期間を決めて、プラントを点検・修理
プラント設備の点検・修理を定期的に行うことを「定期修理」といいます。設備の稼働中や原料・製品が設備内部にある間は保全作業を行えませんので、あらかじめ期間を決めて定期修理を行います。
定期修理は、装置の劣化、腐食、損傷による計画外の停止や更新工事などによる多大な損失発生を防止し、装置を維持するための重要な作業です。定期修理は略して「定修」、また、「シャットダウン」とも呼びます。
定期修理は、通常、1年に1回や4年に1回などの頻度で、約2週間~2カ月間にわたって稼働をすべて停止して行います。頻度は設備により法で定められており、行政による保安検査が行われます。
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表1:行政による検査・監査の概要と主体
化学プラントでは危険物や高圧ガスなどを扱うため、「高圧ガス保安法」「消防法」「労働安全衛生法」の「保安3法」、あるいは「石油コンビナート等災害防止法」を加えたいわゆる「保安4法」の厳格な適用を受けます。また、安全性向上を目的とした自主的な基準も適用します。
メーカーにとって定期修理の意義は大きいが課題も
メーカーを自社の化学プラントで製品を製造・出荷するメーカーの視点から、定期修理におけるポイントを説明します。
定期修理は、機器の劣化を防ぎ、計画外の停止や更新など、あるいは事故の発生による損害賠償や操業停止などの多大な損失を回避することを目的とします。また、運転再開時に装置の生産性を最高レベルに戻し、次回の定期修理まで機能を継続させることが目標となります。
こうした目的や目標があって、定期修理が実施されるわけですが、一方で課題もあります。主に、次のようなことが指摘されます。
・定期的に操業を停止して法定の設備検査を行う必要があるため、保全作業以外の負担が大きい
・競争力強化のための最新技術導入と装置増強が常態化し、それに付随して工事量が増大化している
・時期的に各社集中することが多く、工事機材や熟練要員の不足が慢性化している
・高経年化や老朽化している設備が多く、損壊防止のための事前更新や保全人材の育成が急務となっている
法令遵守のもとでの定期修理が基本
メーカーは、プラントの保全に関する規格や基準類の存在も意識する必要があります。保安法の適用を受ける工場における保全関連の規格・基準類は、法に基づく保安維持の規定類と、高圧ガス保安協会保安検査基準や定期自主検査指針などを活用した検査基準類、また計画保全基準などにより構成されています。
関連法規には、それぞれ保全に関する基準が設定され、その基準に従った検査等が行われます。検査は定期的に行われ、総じて「定期検査」と呼ばれますが、高圧ガス保安法、消防法、労働安全衛生法においてそれぞれ呼称や監督官庁が異なっています。
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表2:各法律での「定期検査」の呼称・検査者
定期修理の作業内容はどういうものかというと、基本的には、装置の稼働中に実施できない内部の点検・修理・洗浄、また法で定められた点検などを行います。設備の更新や改善工事、新規設備の設置も行います。
製造オペレーターは、定期修理の前後で、プラントの停止、試運転、再稼働や安全確認を行います。また、定期修理前に装置や配管内部の可燃物を除去し、安全を確認・確保しておきます。
化学プラントは改造が多く、劣化形態が途中で変わることがあります。自主検査基準に従って劣化速度や寿命を評価し、保全プログラムを作成すること、また、適正に運用することが重要となります。
定期修理時において、関連法規の遵守義務に違反したことより事故が発生した場合、危険物を取り扱うことから法的責任が認定されます。行政法上の責任として、高圧ガス保安法に基づく完成検査および保安検査に係る認定が取り消しとなる場合、4年に1回の定期修理を毎年実施することになります。
こうした問題が生じると、ユーザーに対して契約に基づく供給責任を履行できなくなり、生じた損害を賠償する責任が発生することがあります。従って、定期修理は、装置を正常に保つことで責任発生を予防するために行うものともいえます。

図2:稼働開始から年月の経ったプラント
ユーザー側も定期修理に無関係ではいられない
一方、製造物の供給を受けるユーザー側は、化学プラントの定期修理にどう向き合えばよいでしょうか。ここでは主に商社・代理店の視点から考えてみます。
まず、次のような課題を挙げることができます。
・定修期間は長期にわたるため、需給バランスの細かい調整が必要となる
・春・秋に定期修理が集中する傾向があり、需給の柔軟性が損なわれ、市況の乱高下を誘発する
・予期しない事故発生による定期修理期間の延長や生産中止などにより、供給が不安定になる
・定期修理中はメーカー側との情報共有が滞りがちになり、不測の事態への対応が遅れる
これらの課題は、サプライチェーン全体に影響を及ぼしうるものだと考えておく必要があります。サプライチェーンとは、製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫、配送、販売までの一連の流れのことをいいます。サプライチェーンでは、メーカー、商社・代理店などの販売・流通企業、そして最終消費者までが、相互協力的な関係の中でつながっています。
定期修理で不具合が発生した場合、再稼働の遅延、生産量の低下、製品品質の劣化などが起こるため、サプライチェーンにおけるモノや情報の流れに混乱が生じます。また、事故発生時にはサプライチェーンが寸断され、原材料や部品・製品の供給の流れは深刻な打撃を受けます。ユーザー側にも供給責任が生じることから対策が必要となります。
では、ユーザー側がとれる対策にはどういったものがあるでしょう。石油化学工業協会などの各団体で構成される定期修理研究会が2019年に公表した「今後の定期修理の在り方に関する報告」を参考にしてみます。本報告では、全体の供給責任を果たす観点から、ユーザー側に以下のことを推奨しています。
・メーカー側の定期修理の計画に即して、双方の在庫の積み上げを最大限行う
・定修期間における物流全体の調整などの一定の措置を講じる
・サプライチェーンの構成者として、チェーン構成者間の協働化を図り、汎用品の他社提供や共同在庫量の確保、他社の物流や代理店の協働化、情報の共有化を考慮する
・上流側(メーカー・サプライヤー)の事故時に下流側(ユーザー)が被る損失を補償する「仕入先・納品先物件等の敷地外物件を補償する特約」を付帯した保険契約を相互に確認する
ユーザーも供給責任を負う立場から定期修理に積極関与を
定期修理の不具合による事故などの法的な責任は、一次的にはメーカー側にあります。事故だけでなく再稼働後の故障などにより契約に基づく供給責任を履行できなくなった場合、メーカー側は、ユーザー側に生じた損害を賠償する責任が発生します。
一方で、商社などユーザー側においては、法的責任とは別に、下流側の多種多様な納入先に対して供給責任を負っているといえます。契約の定めというよりは市場の安定のため、また、信頼関係の維持・継続の観点からメーカーの定期修理計画の健全性に関与すべきです。
日本産業規格(JIS:Japanese Industrial Standards)の「JIS Z7201:製品含有化学物質管理-原則及び指針」では、直接製品を取り扱うことのない商社などユーザーの場合でも、製品に含有する化学物質を適切に把握し、サプライチェーンにおいて情報入手・提供を適切に行うことが規定されています。
定期修理において化学プラントの装置改造や新設工事が計画された場合、再稼働後の新製品製造、品種変更などにより含有化学物質にも変化が生じることがあります。その把握、情報提供が適切に行われないと規定に抵触することになるため、メーカーとの綿密な情報交換が必要です。
SCE・Netの執筆者がお届けしてきた「化学業界の基礎知識」は、今回で最終回となります。長らくのご愛読ありがとうございました。今後も、SCE・Net執筆者の寄稿によるChematels記事にご期待ください。
鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net
1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。
