中国におけるVOC規制 ~最新動向とGB規格への対応について~

2020/11/16


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執筆: 上海艾路謨商贸有限公司  林田 辉昭

2020年12月から中国で「VOC(揮発性有機化合物)」規制の適用が始まります。VOC規制にかかわる国家強制標準規格は、いずれも幅広い分野の製品が対象となっており、多くの業種の事業者に影響が及びます。中国国内で化学製品製造関係施設およびVOCを洗浄剤生産・販売する製品だけでなく、日本で生産された原料を中国に輸出する場合も適用対象となります。

1.VOCとは

VOCとは「Voltatile Oganic Cmpounds」の略で、揮発性有機化合物のことです。世界保健機関(WHO)による基準では、大気中に気体で存在する有機化合物のうち、沸点が50~260℃の物質の総称であり、トルエン、キシレン、酢酸エチルなどが該当しています。これらはPM(Particulate Matte)2.5などの浮遊粒子状物質および光化学オキシダントによる大気汚染をもたらす主要な原因物質です。

VOCには急性毒性はありませんが、発がん性など人体に有害な影響を及ぼすもの多く、近年はシックハウス症候群の原因物質としても知られており、その種類は100種類以上です。 

2.日本におけるVOC規制

日本においては「大気汚染防止法」で、以下のように定義されています。

・「大気中に排出され、又は飛散した時に気体である有機化合物(浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない物質として政令で定めた物質を除く)を『揮発性有機物質(VOC)として定める』」

・「工場・事業場に設置される施設で、VOCの排出量が多いためにその規制を行うことが特に必要なものを『揮発性有機化合物排出施設』と定める」

VOCの排出を抑制するため、環境省は自動車からの炭化水素の排出規制に加えて、2004年5月に大気汚染防止法を一部改正しました。さらに、2005年5月、6月に「大気汚染防止法に基づく大気汚染防止法施行令」(政令)、「大気汚染防止法施行規則」(省令)を改正、加えて「VOC濃度の測定法」を環境省告示で定めました。政令で、「オキシダント生成能が低いメタンと7種類のフロン類をVOCから除く物質」として指定しました。

塗装、接着、印刷関係施設(塗料、接着剤、インキなどの溶剤としてVOCが含有されている)、VOCを溶剤として使用する化学製品製造関係施設およびVOCを洗浄剤として使用する工業用洗浄施設からのVOC排出量は多く、とりわけこれら施設の中で年間50トン程度の潜在的な排出量を有する施設を規制の対象施設と指定されました。

さらに省令において、これら各施設における排出基準の設定、既設に対する排出基準の適応猶予を設けました。これによって2006年4月1日からVOCにかかる排出規制と事業者の自主取組とを適切に組み合わせること(ベストミックス)で、2010年までに工場および事業場などの固定発生源からのVOC排出総量について「2000年度比の3割程度削減」を目標として、VOCの排出規制が開始されました。

その後、規制対象事業者におけるVOC処理装置の導入や代替物質への転換、VOC使用量低減等の対策が進み、目標とした2010年にはVOC排出総量は目標を大幅に超え2000年度比5割削減が達成できました。

3.中国におけるVOC規制

3.1 VOC定義

中国におけるVOCの定義は、以下のようになっています。

•101.3kPaの標準圧力で250℃以下の初留点を持つ有機化合物

•大気の光化学反応に関与する、または関連する規制に従って決定される有機化合物

3.2中国におけるVOC規制の流れ

中国政府は深刻になってきた大気汚染を抑制するために、VOCの排出管理に対して多くの注意を払い、さまざまな国の政策を推進してきました。

国務院は、2013年6月に、「大気汚染防止に係わる十大措置」、2013年9月10日に「大気汚染防止行動計画(大気十条)」を通知し、2017年までの大気汚染防止および管理計画を明確にし、PM2.5およびPM 10の2012年比10%削減目標などの大気汚染防止の施策を開始しました。

2015年8月29日には、1987年に制定された大気汚染防止法の第2次改正が行われ、2016年1月1日から施行されました。この改正にて、大気汚染防止法に地方政府の責任強化および地方政府への監督強化、重点対策として大気汚染主要発生源となる産業と重点地域汚染対策の連動、罰則の強化などが盛り込まれました。

2018年6月27日に国務院は、「青空防衛戦争に勝利するための3年間行動計画」を通知しました。この通知の目標は、「3年間の懸命な努力の結果で、主要な大気汚染物質の総排出量を大幅に削減し、温室効果ガス排出量を削減する。さらに、PM2.5などの微細粒子状物質の濃度を大幅に削減し、重度の汚染の日数を大幅に削減し、周囲の大気質を大幅に改善することで、明確に人々の青空の幸せを高める」とされています。

2018年から20年までの3年計画で目標年は2020年となっています。これは現在制定されている生態環境保護「第13次5カ年計画」が2016から2020年までであるためです。この計画は、大気汚染物質総量、温室効果ガス排出、粒子状物質濃度を大幅に低減し、青空を取り戻すための目標と対策、ロードマップを示し、北京・天津・河北地区と周辺、長江流域、汾河・渭河盆地(山西省、河南省および陝西省のそれぞれ一部の地域)を重点地区としました。目標年の2020年までに二酸化硫黄と窒素酸化物の年間総排出量を2015年比で15%以上低減、基準未達成都市の粒子状物質濃度を2015年比で18%以上低減する等の目標を掲げています。

その達成のために、法律法規・基準体系を整備し、環境保護税の徴収範囲にVOCを含めることの検討、北京・天津・河北地域および周辺地域における「大気汚染防止条例」、「汚染排出許可管理条例」を策定しています。2019年末までには、塗料、インク、接着剤、洗浄剤、およびその他製品のVOC含有量制限に関する必須の国内基準の策定を完了し、2020年7月1日から主要な領域で主導的にそれらを実施するとしました。

中国生態環境部は2019年6月26日に、「重点業界における揮発性有機物の総合対策方案」を告示しました。この方案では、第13次5カ年計画で決定したVOC排出量の10%削減、温室効果ガスの排出の抑制、環境中の空気の品質の持続的改善を推進することを目標としています。方針と要求として、下記4項目を示しました。

1.発生源となる原料の代替を推進する。水性、粉末、高固体分、無溶剤、放射硬化などVOC含有量の低い塗料を使用する。VOC低含有量の塗料、インク、接着剤などの研究開発および製造を奨励する。

2.無組織排出の制御を全面的に強化する。設備と場所の密封管理を強化、先進的な生産プロセスの採用を推進し、排ガス収集率を高め、設備と配管部品の漏出制御を強化する。

3.適切かつ効率的な汚染対策施設の建設を推進する。

4.重点地域ではVOC排出量の大きい企業に対し「一工場一対策」案を作成し完成させる。(期限は2020年6月末)企業の運営管理を強化する。

・重点地域:北京・天津・河北地区と周辺、長江流域、汾河・渭河盆地(山西省、河南省および陝西省のそれぞれ一部の地域)を指定。

・重点業界:石化業界(石油精製・有機化学品・合成樹脂・合成繊維・合成ゴム陝西省など)、化学工業業界(製薬・農薬・塗料・インク・接着剤など)、工業塗装(自動車・家具・コンテナ・電子製品・エンジニア機械など)、包装印刷業界(プラスチック包装印刷・スチール缶印刷など)、石油製品貯蔵・運輸販売(ガソリン・ナフサ・ディーゼル・原油など)および工業園区と産業園区

中国生態環境部は2020年6月24日に、「2020年揮発性有機化合物を管理するための攻略方案」を告示しました。オゾン汚染はVOCを主因として形成されるため、VOC管理強化がオゾンによる汚染を制御する有効手段となります。そのため、生態環境部は第13次5カ年計画における大気質の改善目標を達成するために、「オゾンによる汚染を確実に低減させ、全国で夏季(6~9月)のVOC管理特別行動」として、次の10項目の管理目標を示しました。

1.発生源となる原料の代替を推進し、VOCの発生を効果的に減らす。

2. 基準の要求を確実に実施し、無組織排出の制御を強化する。

3. 汚染対策施設のVOC収集率、運行率、除去率に注目し、総合整備の効率を向上させる。

4. 園区と企業クラスタの整備を深化させ、産業のグリーン発展を促進する。

5. 石油製品の貯蔵・運輸・販売の監督・管理を強化し、汚染物質の低減を実現する。

6. 改善協力および法執行を実施し、監督の効果を高める。

7. モニタリング監視システムを完備させ、管理水準を向上させる。

8. 政策の支持力を強め、企業の積極性を高める。

9. 宣伝と教育指導を強化し、全国民が共にVOCを退治する良好な雰囲気を作る。

10. 政府の指導を確実に強化し、審査監督を厳格に実施する。

2020年6月30日に中国生態環境部は、「揮発性有機化合物(VOC)実用管理手引(中国語で「挥发性有机物治理实用手册」)」など3冊の電子書籍をWebページ上に掲載しました。「手引」では、VOC物質に関する概念、定義、管理、生産プロセスの注意点、現場検査のポイントなどの情報が詳しく紹介されています。揮発性有機化合物の排出または関連する製品にかかわる企業の参考資料です。

3.3製品に含有されるVOC等の規制国家標準

2018年の「青空防衛戦争に勝利するための3年間行動計画」において、塗料、インク、接着剤、洗浄剤などの製品中のVOCの排出制限基準の策定が優先目標として推進されています。中国国家標準化委員会は、2020年3月4日に、製品に含有されるVOCなどの有害物質の制限量に関する7件の国家強制標準(GB規格)を発行しました。規格名称はさまざまですが、各規格にはVOCの基準があり、特定用途では有害物質規制も含まれています。この7件はいずれも2020年12月1日から適応されます。

1.GB 18581-2020:木製品用塗料の有害物質の制限量(中国語:木器涂料中有害物质限量)

VOC基準は水性塗料、油性塗料、UV硬化塗料などの使用方法別に定めています。中国内で生産・使用されるラッカー、橋梁用ペイント、木材着色剤、オープン効果ペイントなど特殊機能性ペイント以外の現場及び工場での塗装用各種木製器具用塗料に適応されます。

2.GB 18582-2020:建築壁面塗料の有害物質の制限量(中国語:建筑用墙面涂料中有害物质限量)

VOCだけでなく可溶性重金属物質の基準もあります。工業用ニトロ類ではフタル酸エステル類の基準もあります。中国内で生産・使用される建物の内面と外面の装飾と保護用の建築用壁塗料に適応されます。

3.GB 24409-2020:車両塗料用の有害物質の制限量(中国語:车辆涂料中有害物质限量)

VOC基準は塗料を下塗、面塗、トップコートなどの用途、水性、油性などに区分して基準が示されています。重金属(鉛、水銀、六価クロム、カドミウム)の制限値もあります。

中国国内で生産・使用されるパテを除く、各種自動車用組立ライン用、自動車補修用、鉄道交通車両用、バイク(自転車を含む)用、その他車両用塗料及びその部品類塗料に適応されます。トラクター輸送ユニット用、車輪付き特殊機械車両用、および軍用車両用塗料には適応されません。

4.GB 30981-2020:工業用保護塗料の有害物質の制限量(中国語:工业防护涂料中有害物质限量)

VOC基準は塗料を下塗、面塗、トップコートなどの用途、水性、油性などに区分して基準が示されています。電気電子機器では重金属(鉛、水銀、六価クロム、カドミウム)の制限値もあります。

中国国内で生産・使用されるパテを除く、金属、コンクリート、プラスチックなどの表面を保護する各種保護塗料(船舶塗料を除く)に適応されます。特殊機能塗料(絶縁塗料、電子部品保護用塗料など)、航空宇宙塗料、原子力塗料、軍事装備及び軍事施設用塗料には適応されません。

5.GB 33372-2020:接着剤の揮発性有機化合物の制限量(中国語:胶粘剂挥发性有机化合物限量)

VOC基準だけで有害物質規制はありません。中国内で生産・使用される溶剤型、水系及び本体型接着剤に適応されますが、以下は適用除外です。

・中間体または流通されない生産原料として使用される接着剤

・研究開発、品質保証又は分析試験室において試験・評価に使用される接着剤

・尿素ホルマリン接着剤、フェノール系接着剤およびメラミンホルムアルデヒド接着剤

・材料を接着する時に使用する特殊機能性表面処理材

6.GB 38507-2020:インク中の揮発性有機化合物含有量の制限(中国語:油墨中可挥发性有机化合物含量的限值)溶剤型、水性型、オフセット型や硬化型インク別にVOC基準を定めています。

出荷状態である全ての種類のインクに適応されます。印刷時にインクの性能を調整するための添加剤、希釈剤などの印刷機洗浄水には適応されません。

7.GB 38508-2020:洗浄剤中の揮発性有機化合物の含有量の制限(中国語:清洗剂挥发性有机化合物含量限值)特定の揮発性有害物質としてホルムアルデヒドなどがあり、基準が厳しくなっています。工業用洗浄剤から除外される揮発性化合物のリストもあります。

中国内で生産・使用される揮発性有機化合物を含む洗浄剤に適応されます。航空宇宙・原子力・軍事産業・半導体(集積回路を含む)製造用洗浄剤には適応されません。

使用している有機溶剤が規制対象かを確認する必要があります。具体的には下記のとおりです。

・用途確認により各GBに対する適応・適応外を確認すること。

・中国製造品を輸入し使用している場合も影響を受ける可能性があるため、サプライチェーン(上流を含む)からSDS(Safety Data Sheet:安全データシート)および含有量情報を入手すること。

・含有量が確認できない場合は、試験機関での分析を要請すること。

万が一、規制違反した場合はどうなるのかといえば、GBはあくまでもVOC基準値の公示のため、現時点では違反時の具体的な罰則は明確ではありません。ただし、今後中国の各省区市から独自の基準値・罰則が公開される可能性もあるので注意が必要です。

4.まとめ

中国は、源流を管理すれば下流は汚染されないという「源流管理」にてVOC排出規制に取り組んでいます。2020年7月1日からは、「VOCの無組織排出制御基準」(GB37822−2019)が施行され、特に、重点地域では無組織排出特別制御要求の実行が求められています。上海市では「2020年揮発性有機化合物を管理するための攻略方案」に基づき重点業種における低VOC原材料・製品への代替が推進されています。

・国家と地方が制定した製品のVOC含有量の制限値基準の厳格化:重点地域である北京・天津・河北地区では、既に建築類塗料と接着剤製品についてVOC含有量の制限基準を満たすことが求められています。

・VOC低(無)含有量の原材料、補助材料の代替の推進:企業は、VOC原材料名称、成分、VOC含有量、購入量、使用量、在庫量、回収方式、回収量等の情報が記録された原材料台帳の作成、関連証明資料の保存が必要)

・無組織排出の制御強化が強く求められ、今後、国家が公開した2020年の管理計画に基づき地方の制限値や管理基準も公開されていくことが予想されます。

日本でのVOC管理は濃度管理ですが、中国では量管理です。まずは、現状把握として取り扱われている原料や製品に対するVOC含有量の確認をされてはいかがでしょうか。

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